近年、クリニックの開業は非常に困難とされています。クリニックは都市部を中心に開業数が多く、反対に人口が減少していることで、集患の難易度が高いのが現状です。よって特徴のないクリニックは廃業を余儀なくされ、廃業数も年々、増えています。しかし、こういった状況下でも、明確なコンセプトや目標を持ち、適切なステップで準備を進めることで、安定したクリニック経営につなげられます。
内科クリニックにおける開業準備の中で、特に経営成功の鍵を握るのは「物件選び」です。立地やアクセスの良さ、広さなどのバランスが取れている物件を選ばないと、利用者を呼び込むことができず、利益につながりません。
今回は内科クリニックの物件選びについて、流れやポイント、探す方法、契約時の注意点などを解説します。
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内科クリニックの物件選びの流れ
ただ物件を探すだけでなく、事前に決めておくべきことや確認すべきポイントがあります。余裕を持ったスケジュールで、できるだけ早めに行動できると良いです。新たに物件を建てる場合もありますが、ここでは賃貸物件を契約する場合の物件選びの流れを説明します。
1. 事業計画の作成
内科クリニックをどういった規模で展開するのか、財源や収益見込み、コンセプトなどをまとめておきます。事業計画を事前に作成しておくことで、物件選びから外せない項目が見えてきます。
2. 物件の希望条件を選定
事業計画の作成で見えた必要な物件の条件を、内科クリニックの特性も踏まえて決めます。好条件の物件であっても、売上に対して賃料が高い場合、長期的に経営を続けることは難しいため、売上見込みに対して払い続けられる賃料であるか考えておきます。
3. 物件探し・内見
不動産業者と相談し、物件を選択します。開業したいエリアの知識が豊富な不動産仲介業者に依頼すると、スムーズに物件を探すことができます。物件を選択するうえで重要であるのが内見です。物件や賃料だけではなく、周辺環境や治安、アクセスの良さを確認し、安定した経営ができそうな物件を選択すると良いです。
4. 申し込み、審査
経営したい物件が決まったら、なるべく早く申し込む必要があります。申し込んですぐに契約が成立するわけではなく、賃料の支払い能力があるか、事業計画が妥当であるかなどの審査があり、追加で提出物を求められた場合はその指示に従わなければいけません。
5. 契約締結
審査が通過してはじめて、正式な契約になります。契約書の条項を確認したうえで、内容に問題がなければ署名と捺印をします。
6. 引き渡し
本契約後、鍵の受け取りが完了すると、物件の引き渡しが行われます。多くの場合、鍵を受け取った日が契約開始日で、引き渡しが完了したら機材などの準備を進めていきます。
物件を選ぶ前に事業計画で決めておくこと
適切な物件を選ぶために、まずは適切な事業計画を作成することが重要です。
事業計画が曖昧では、どういった物件を選ぶべきか迷ってしまい、開業が進まないうえに、ビジネスの方向性自体も曖昧になります。今後のビジネスの指針を決定する重要な項目ですので、具体的な事業計画を策定し、時間をかけてでも明確な内容にします。
ターゲット
ビジネスを始めるうえでターゲットの設定は、今後の方針や売上に直接関係するため、非常に重要なポイントです。年齢層や性別、職業など、様々な側面でのターゲットが考えられます。内科クリニックは患者は多いですが、クリニックの数も多く、一般的な運営では、他クリニックとの差別化を図るのは難儀です。しかし、最新機器の利用で高い効果が期待できる診療内容や子どもを連れて入りやすい設計などといったターゲットを見据えた運営ができると、効果的な運営が可能になります。
メインターゲットが決まれば診療単価がわかり、売上予測において重要な情報です。さらにターゲットの選定は、どういった場所に開業するか、クリニックのコンセプトをどうするかのヒントにもなります。
クリニックの雰囲気、コンセプト
クリニックの雰囲気やコンセプトも考慮すべきポイントの1つです。内科クリニックは、1つの医院で様々な箇所の施術を行う場合が多く、各クリニックの規模感が物件選びを大きく左右する要素になります。
ターゲット層と雰囲気がマッチしない場合、クリニックに入りづらかったり、リピートにつながらなかったりする可能性があります。しかし、こういった悩みは内装工事が必要性や予算の確保などの良い判断材料です。コンセプトや雰囲気は大切な要素ですが、見た目ばかりを重視すると、費用がかかるだけでなく、ターゲットとした利用者層が訪れない場合があります。見た目より立地の方が集患につながる重要な点です。他の項目とのバランスを鑑みながら、最低限の譲れないラインを決めることが大切です。
価格設定
がん検査や人間ドック、予防接種などは自由診療になるため、価格の設定が必要です。内科クリニックの価格設定には以下の要素が関わってきます。
・市場的にどのくらいの価格が適正か
・ターゲット層が無理せず支払える範囲か
・開業するエリアの診療単価との兼ね合い
・初期投資やランニングコストを差し引いて利益を出せるか
価格が決定すると売上見込みを出すことができます。事業計画の作成にも必要な事項なので、物件申込後の審査のためにも診療価格の設定は重要です。
設備、規模
大規模な施設にするのか、小規模な施設にするのかを踏まえ、必要な設備次第で、クリニックの面積や備品数などを考える必要があります。設備の種類・数次第で初期費用が大きく変わってきます。
初めに投資した分を回収して、黒字にするためにはどのくらい売上をあげなければならないかを計算すると、価格設定や賃料の参考に使えます。
賃料の上限
これまでの条件を総合して、払い続けられる賃料がどのくらいまでなのか決めます。どんなに良い物件があっても、売上に対して賃料が高すぎると借り続けることはできません。軌道にのるまでの賃料が事前に用意できているかも忘れてはいけないポイントです。毎月のランニングコストとしてかかり続けるため、無理のない範囲で払える賃料であるか考慮しなければいけません。
賃料は往々にして「希望の賃料」「妥協できる賃料」「これ以上は絶対に払えない賃料」というラインが存在します。賃料が高いものの条件がいい物件を見ると「このくらいなら…」と心が動きやすいですが、上記3点をあらかじめ決めておいて、不相応な賃料の物件を選ばないように注意することが大切です。
賃料の上限を決定することで、事業を始めるにあたって確保すべき予算がある程度把握できます。
物件選びのポイント
事業計画の作成で、イメージする物件の条件を洗い出したら、次は物件の探索です。ここでは具体的にどのような点が物件選びのポイントになるか解説していきます。
立地・エリア
クリニックの立地は物件選びの中で最も重要です。ターゲット層がよく来る場所でわかりやすいかどうか、内科クリニックの競合がいないか、などをチェックしましょう。交通の利便性が良かったり、競合が少なかったりすることで、集患やスタッフ採用に良い影響を与えます。
ターゲット次第では駐車場や駐輪場も必要になることもあります。エリアの特性を考えて場所を選定しておくことが大切です。
面積・規模
内科クリニックは、使用する機器や設備の大きさや、受け入れる人数もよって、ある程度の面積が必要です。医療機器を搬入する場合、高さも必要になるので、導入する機器の大きさを事前に把握して物件を選ばなくてはいけません。特別な機器がなくとも、解放感のあるクリニックにしたい場合は、広さも重視する必要があります。
一度に多くの患者を診療するために大規模なクリニックにするのか、賃貸費を抑えた小規模なクリニックにするのかなども踏まえて、ターゲットや理想の運営方針に合った最適な広さを見つけることが不可欠です。
周辺環境のリサーチ
物件やエリアの特性を知るだけではなく周辺の環境も大切です。周囲のオフィスビル、飲食店の有無や雰囲気、治安なども集患を担うポイントです。また、周辺内科クリニックの有無、その他クリニックや病院なども事前に把握しておく必要があります。内見で確認していた点や事前に調査していた点の答え合わせをすることにもなるため、周辺環境は細かくリサーチすることをおすすめします。
物件の種類
クリニックの運営を大きく左右するポイントとして物件の種類は欠かせません。物件が存在する場所や内容によりいろいろなものがあります。
戸建て物件
戸建ての物件は、建築に時間がかかりますが、動線や配置割り当てを自由に設計できるという特徴があります。同じ戸建てでも土地のオーナーが建てた建物を借りての開業や、駐車場の設置など条件によってさまざまです。また、初期費用が大きいことや調剤薬局が近辺にあるか確認しなければいけないなどのデメリットもあります。戸建て物件は、特に首都郊外や地方、住宅地の経営に向いています。
テナント物件
テナント物件はビルや空き家を契約することで経営でき、戸建てに比べ初期費用が抑えられます。特に周辺人口の多い場所での運営になるため、より集患できる運営をするために周辺状況のリサーチが欠かせません。
しかし、間取りを大きく変えることができないため、電気や水回りの設備、ビルの管理がクリニックの運営に適していない場合があります。オーナーが変わったりビルが建て替えられる際に退去しなければいけないというリスクもあり、テナントに関して詳しく調査する必要があります。
医療モール
医療モールは、いくつかのクリニックが1カ所に集まった物件で、患者にとっての利便性だけでなく、開業や運営、診療の面でメリットの多いスタイルです。特に挙げられる利点として、共同設備が利用できることから費用を抑えられたり、大型商業施設やショッピングモール近辺に併設されていることも多く患者の獲得が容易であったりというものがあります。
反対に、患者が調剤薬局を選べないことや、内装を決める業者が決まっていて自由にできないことなど医療モール側の意向に従う必要があります。また、同じモール内に同一の診療科目があることによる患者の奪い合いや、モール内の他クリニックの評判が悪いことによる集患の難化もあるため、入念な調査が必要です。
路面物件
路面物件は1階にあり、道路に面している施設です。通行人の目に留まりやすく新規利用者を獲得しやすいため、はじめて開業する人や目新しいサービスを行う場合に適していますが、プライバシーを重視したクリニックでは適切ではありません。
空中物件
空中物件は2階以上にある施設です。飛び込みの利用希望者を取り込みにくく集患では路面物件に劣ります。その分賃料が抑えめな傾向があります。クリニックでは施術中の様子を見られたくないと感じる患者も多く、2階以上の方が信頼を得られることもあります。
居抜き物件
居抜き物件は前のテナントの設備や家具などがそのまま残っている物件です。特に同業種の場合、そのままの設備を利用できるため、開業時の設備投資を抑えられるうえに、すぐに事業が始められます。一方で設備が老朽化していて、結局改修で費用がかかる可能性もあります。
承認物件
承認物件は、クリニックや医院が診療を行っているうちに引継ぎに関する相談や交渉をして丸ごと引き継ぐといった物件で、近年非常に増えています。カルテごと患者を引き継ぐことになるため、物件の価格に加え、営業権やのれん代が発生する場合が多いです。賃貸物件での承認の場合、大家にも確認を取って契約を締結する必要があります。
スケルトン物件
スケルトン物件は内装も設備も何もない物件です。自分で設備やインフラ等を準備する必要があり、初期費用や退去費用が多くかかる場合がありますが、自分の思い通りのクリニックにできるメリットがあります。
他にも規模の小さいクリニックであれば、自宅兼医院という形で営業できる場合もあり、クリニックの診療科やコンセプトによって多種多様で、どのような運営にするかで選ぶ物件は変わります。それぞれに合った最適な物件の見極めが大切です。
物件の探し方
物件を探す際、インターネットの物件サイトで希望物件を絞り込み、サイト経由で不動産仲介業者に行く方法が、一般的かつ効率の良い探し方です。また不動産業者に理想の物件を相談することで、専門的な意見を得られます。
その他、該当するエリアの不動産会社に直接訪問する方法は、インターネットに上がっていない非公開の優良物件について教えてくれる場合があり、効果的な探し方です。また、エリアを自分で歩き、アクセスの良い空き施設を探してみるのもいいかもしれません。
急ぎで探さなくてはならない場合もあるため、その時の状況にあった方法で物件を探す柔軟さが必要です。
内見のポイント
物件を探す際、絶対に外せないのが内見です。データ上では好条件な物件でも、実際に内見に行くと、入口がわかりづらい、面積が広いが間取りに違和感があるなど、ギャップを感じることが多々あります。同時に、物件の希望条件を考えていた時点で気づけなかった、思わぬ重要ポイントや隠れたニーズを洗い出すこともできます。
物件そのものだけではなく、周辺環境を確認できるのも内見のメリットです。特に内見時に見ておくと良いポイントを以下に記載します。
【物件】
・入口の入りやすさ
・体感の広さ/高さ
・間取り
・設備内容
・エアコン/トイレの配置
・コンセントの有無や数
【周辺環境】
・アクセス
・周辺の雰囲気
・競合施設の有無
・治安
・ターゲット層が歩いているかどうか
物件契約時の流れ、準備
審査を無事に通過したら、続いて物件の契約です。
契約内容を注意深く確認し、賃料や初期費用、退去時の手続きなどに関して問題がなければ署名と捺印をします。疑問点があれば、弁護士などの専門家に相談するか、不動産業者に質問すると安心して解決できます。定期借家契約や居抜き物件の譲渡契約など、ややこしい契約がないかあらかじめ確認しておくことが必要です。特に広告・宣伝に関する制限は、経営に大きく影響するポイントでもあるため、制限が無いかをよく確認するべきです。またテナントの契約時は、家主側と交渉して、クリニックにふさわしくない業種が同じ建物に入らないような特約を結ぶことがおすすめです。
契約後は、内装工事の依頼や必要な用品・機器の準備・購入を進めていきます。内科クリニックの開業は医師免許や内科専門医の資格以外に、豊富な知識と経験、技術の証明が不可欠です。また、より有利な経営ができるようにする資格の取得をおすすめします。
まとめ
今回は内科クリニックの物件探しについて詳しく解説しました。
物件選びは、クリニックのブランドイメージの形成や、安心を与えるという面、そしてビジネスを成功させるために、非常に重要なポイントです。一度決めた場所を引っ越すのはかんたんではありません。早急な開業でも、最初に丁寧に準備をして、ターゲットの選定や立地、設備、面積などの条件を洗い出すことで、快適な内科クリニックの運営を目指せます。
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画像引用元:RESERVA公式ホームページ
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