インターネットの発展によって、さまざまなコンテンツがオンラインで楽しめるようになり、人々がパソコンやスマートフォンなどの画面を見ている時間は大幅に増加しました。それに比例して増加しているのが、VDT症候群や急性内斜視といったデジタルデバイスの使い過ぎに起因する目の不調です。現代病とも呼ばれるこれらの目にまつわる不調は、生活習慣に基づいたものであるため改善が難しく、患者数も増え続けることが予想されます。
眼科クリニックを訪れる患者は、多くのクリニックの中から診療内容や立地、評判などを総合的に判断し、もっとも良いと感じたクリニックを受診します。そのため、特に都心部など選択肢の多い地域で患者を獲得するためには、ほかのクリニックと差別化を図ることが重要になります。
眼科クリニックの安定した経営を実現するためには、「物件選び」がポイントです。物件選びには、立地やアクセスの良さ、院内の雰囲気といった診療内容以外の判断要素が多く含まれます。本記事では、眼科クリニックの物件選びについて、全体の流れや物件探しのコツ、契約時の注意点などを解説していきます。
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眼科クリニックの物件選びの流れ
物件選びには、実際に物件探しを始める前に、決めておくべきことや確認すべきポイントがあります。余裕を持ったスケジュールで、できるだけ早めに行動することが大切です。
また、クリニックの開業に際して、新たに物件を建てる場合もありますが、今回は賃貸物件を契約する場合の物件選びの流れを解説します。
1.事業計画の作成
クリニックをどういった規模で展開するのか、財源や収益見込み、コンセプトなどをまとめておきます。事業計画を事前に作成しておくことで、物件選びから外せない項目が見えてきます。
2.物件の希望条件を選定
事業計画の作成で見えた必要な物件の条件を、眼科クリニックの特性も踏まえて決めましょう。好条件の物件であっても、売上に対して賃料が高い場合、長期的に経営を続けることは難しいため、売上見込みに対して払い続けられる賃料であるか考えておきます。
3.物件探し・内見
不動産業者と相談し、物件を選択します。開業したいエリアの知識が豊富な不動産仲介業者に依頼すると、スムーズに物件を探すことができます。物件を選択するうえで重要であるのが内見です。物件や賃料だけではなく、周辺環境や治安、アクセスの良さを確認し、安定した経営ができそうな物件を選択すると良いでしょう。
4.申し込み、審査
経営したい物件が決まったら、なるべく早く申し込む必要があります。申し込んですぐに契約が成立するわけではなく、賃料の支払い能力があるか、事業計画が妥当であるかなどの審査があり、追加で提出物を求められた場合はその指示に従わなければいけません。
5.契約締結
審査が通過してはじめて、正式な契約になります。契約書の条項を確認したうえで、内容に問題がなければ署名と捺印をします。
6.引き渡し
本契約後、鍵の受け取りが完了すると、物件の引き渡しが行われます。多くの場合、鍵を受け取った日が契約開始日で、引き渡しが完了したら機材などの準備を進めていきましょう。
物件を選ぶ前に事業計画で決めておくこと
適切な物件を選ぶためには、ビジネスの基盤となる事業計画を立てておく必要があります。ここで開業にあたっての方向性をしっかりと定めておかないと、物件探しで手間取ってしまったり、コンセプトやターゲットに一貫性がなくなってしまいます。
計画の時間をきちんと確保して、充実した事業計画を作成しなければなりません。
ターゲット
どんな業種の事業計画でも、ターゲットの設定は非常に重要なポイントです。眼科クリニックは幅広い利用者層が想定されるため、その中でも特に呼び込みたい患者の性別や職種、年齢層などを絞っていく必要があります。
ターゲットを絞っておくことで客単価が予測でき、営業時間や診察料の決定や、開業資金の回収にかかる大まかな期間を判断するのに役立ちます。また、開業する地域やクリニックのコンセプトを決める際の参考にもなります。
クリニックの雰囲気・コンセプト
クリニックの雰囲気やコンセプトも、考慮すべきポイントのひとつです。ターゲット層を意識してクリニックの雰囲気を決めておくことで、その層の患者が足を運びやすく、リピートにつながりやすくなります。
例えば、仕事や学校終わりの患者をメインのターゲットにしたい場合、クリニック内はリラックスできる落ち着いた雰囲気のほうが、疲れている患者にとって居心地の良い空間になります。
一方で、雰囲気やコンセプトにこだわりすぎると、内装工事の予算が大幅に上がってしまったり、メインターゲット以外の患者の層にとって立ち入りづらくなったりしてしまいます。予算やほかの項目とのバランスを意識したうえで設定することが重要です。
価格設定
レーシックやICL、レーザー手術などの自由診療を行う場合、価格の設定が必要です。眼科クリニックの価格設定には以下の要素が関わってきます。
・市場的にどのくらいの価格が適正か
・ターゲット層が無理せず支払える範囲か
・開業するエリアの診療単価との兼ね合い
・初期投資やランニングコストを差し引いて利益を出せるか
価格が決定すると売上見込みを計算できます。診療価格の設定は、事業計画の作成における必要事項です。物件申込後の審査にもかかわるため、慎重に進めましょう。
設備・規模
大規模な施設にするのか、小規模な施設にするのかを踏まえ、必要な設備次第で、クリニックの面積や備品数などを考える必要があります。設備の種類・数次第で初期費用が大きく変わってきます。
はじめに投資した分を回収して、黒字にするためにはどのくらい売上をあげなければならないかを計算すると、価格設定や賃料の参考に使えます。
賃料の上限
これまでの条件を総合して、払い続けられる賃料がどのくらいまでなのか決めます。どんなに良い物件があっても、売上に対して賃料が高すぎると借り続けることはできません。軌道にのるまでの賃料が事前に用意できているかも忘れてはいけないポイントです。毎月のランニングコストとしてかかり続けるため、無理のない範囲で払える賃料であるか考慮しなければいけません。
賃料は往々にして「希望の賃料」「妥協できる賃料」「これ以上は絶対に払えない賃料」というラインが存在します。賃料が高いものの条件がいい物件を見ると心が動きやすいですが、上記3点をあらかじめ決めておいて、不相応な賃料の物件を選ばないように注意しましょう。
賃料の上限を決定することで、事業を始めるにあたって確保すべき予算がある程度把握できます。
物件選びのポイント
事業計画の作成で、イメージする物件の条件を洗い出したら、次は物件の探索です。ここでは具体的にどのような点が物件選びのポイントになるか解説していきます。
立地・エリア
クリニックの立地は物件選びの中で最も重要です。駅前、オフィス街、商店街や住宅街など、エリアごとに患者の層が大きく異なります。ターゲット層がよく来る場所で、立地がわかりやすいかどうか、眼科クリニックの競合がいないかなどをチェックしましょう。交通の利便性が良かったり、競合が少なかったりすることで、集患やスタッフ採用に良い影響を与えます。
ターゲット次第では駐車場や駐輪場も必要になることもあります。エリアの特性を考えて場所を選定しておくことが大切です。
面積・規模
眼科クリニックは、使用する機器や設備の大きさや、一度に診察する人数によってある程度の面積が必要です。医療機器を搬入する場合は高さも必要になるので、機器の大きさを事前に把握して物件を選ばなくてはいけません。また、解放感のあるクリニックにしたい場合は、広さも重視する必要があります。
一度に多くの患者を診察する大規模なクリニックにするのか、賃貸費を抑えた小規模なクリニックにするのかなども踏まえて、理想の運営方針に合った最適な広さを見つけましょう。
周辺環境のリサーチ
物件選びは、物件自体やエリアの特性だけでなく、周辺の環境も大切になってきます。周囲のオフィスビル、飲食店の有無や雰囲気、治安なども集患を担うポイントです。また、周辺の眼科クリニックはもちろん、ほかの診療科のクリニックや病院なども事前に把握しておく必要があります。
サイトや書面には、基本的に物件を売り込むのに不利になる情報は記載されていません。そのため、内見の際に自分の足で周辺を回り、治安や雰囲気などに違和感がないかを確かめることが大切です。
物件の種類
クリニックの運営にもっとも影響するのが、物件の種類です。同じ賃貸の物件でも、さまざまな特性があります。
戸建て・テナント・医療モール
戸建て物件は、ほかと比較して賃料は高めですが、メリットも十分にあります。まず、住居として独立しているため騒音の心配がありません。また、駐車場付きである場合も多く、全体的に自由度の高い経営が可能です。戸建て物件は、特に首都郊外や地方、住宅地での経営に向いています。
テナント物件はビルやアパートの一室を契約することで経営でき、戸建てに比べ賃料が抑えられます。しかし、周辺人口の多い場所での運営になるため、エリアのリサーチが欠かせません。また、間取りを大きく変えることができないため、経営形態にやや制約があります。
医療モールは、ショッピングモールに併設された、さまざまなクリニックが集合するエリアのことを指します。利用者にとっての利便性が高いだけでなく、トイレや待合室を共有できるため設備費用を抑えられたり、買い物やほかの治療など別目的の患者への集患が見込めたりするのが強みです。一方で、診療時間や設備、デザインなどを医療モール側の意向に従って定める必要があります。
路面物件と空中物件
路面物件は1階にあり、道路に面している施設です。通行人の目に留まりやすく新規患者を獲得しやすいため、はじめて開業する人や目新しいサービスを行う場合に適していますが、プライバシーを重視したクリニックには適切ではありません。
空中物件は2階以上にある施設です。飛び込みの利用希望者を取り込みにくく集患では路面物件に劣りますが、その分賃料が抑えめです。クリニックでは施術中の様子を見られたくないと感じる患者も多く、予約制であることも少なくないため、2階以上の方が利用しやすい場合もあります。
居抜き物件とスケルトン物件
居抜き物件は前のテナントの設備や家具などがそのまま残っている物件です。既存の設備やインテリアをそのまま利用できるため、開業にあたっての初期費用を大幅に減らすことができます。初期費用を安く抑えられると、開業コストの回収が早くなるため、経営が軌道に乗りやすいです。一方で、既存の設備や内装をそのまま利用していくため、自分の理想とするデザインや設備配置を行うことが難しくなります。また、設備の不具合や故障があった場合には修理のコストが追加で発生することもあります。
スケルトン物件は、既存の設備などが何もない物件であるため、内装や設備、間取りなどを自身の希望に合わせて自由に設計できます。また、開業時に内装や設備が新しく導入されるため、居抜き物件の設備と比較して経年劣化による故障などの心配が少なくなります。しかし、内装や設備をゼロから導入するには多額の費用や時間がかかります。スケルトン物件を借りる場合、開業までの時間がどうしても長くなってしまうため、余裕を持った事業計画が必要です。
ほかにも、規模の小さいクリニックであれば、自宅兼医院という形で営業できる場合もあります。適切な物件は、クリニックのコンセプトによって多種多様であるため、それぞれに合った最適な物件の見極めが大切です。
物件の探し方
物件を探す際、インターネットの物件サイトで希望物件を絞り込み、サイト経由で不動産仲介業者に行く方法が、一般的かつ効率の良い探し方です。また不動産業者に理想の物件を相談することで、専門的な意見を得られます。
その他、該当するエリアの不動産会社に直接訪問する方法は、インターネットに上がっていない非公開の優良物件について教えてくれる場合があり、効果的な探し方です。また、エリアを自分で歩き、アクセスの良い空き施設を探してみるのもいいかもしれません。
急ぎで探さなくてはならない場合もあるため、その時の状況にあった方法で物件を探す柔軟さが必要です。
内見のポイント
物件を探す際、絶対に外せないのが内見です。データ上では好条件な物件でも、実際に内見に行くとギャップを感じることが多々あります。同時に、物件の希望条件を考えていた時点で気づけなかった、思わぬ重要ポイントや隠れたニーズを洗い出すこともできます。
物件そのものだけではなく、周辺環境を確認できるのも内見のメリットです。特に内見時に見ておくと良いポイントを以下に記載します。
【物件】
・入口の入りやすさ
・体感の広さ
・間取り
・設備内容
・コンセントの有無や数
【周辺環境】
・アクセス
・周辺の雰囲気
・競合施設の有無
・治安
・ターゲット層が歩いているかどうか
物件契約時の流れ・準備
審査を無事に通過したら、続いて物件の契約です。
契約内容を注意深く確認し、賃料や初期費用、退去時の手続きなどに関して問題がなければ署名と捺印をします。疑問点があれば、弁護士などの専門家に相談するか、不動産業者に質問すると安心して解決できます。定期借家契約や居抜き物件の譲渡契約など、ややこしい契約がないかあらかじめ確認しておきましょう。またテナントの契約時は、家主側と交渉して、クリニックにふさわしくない業種が同じ建物に入らないような特約を結ぶことがおすすめです。
契約後は、内装工事の依頼や必要な用品・機器の準備・購入を、時間に余裕をもって計画的に進めていきましょう。
まとめ
今回は眼科クリニックの物件探しについて詳しく解説しました。
物件選びは、クリニックのブランドイメージの形成や、安心を与えるという面、そしてビジネスを成功させるために、非常に重要なポイントです。一度決めた場所から引っ越すのはかんたんではないため、慎重かつ丁寧な準備が必要になります。経営者と利用者の双方が満足できるような眼科クリニックの開業を目指して、物件選びを進めていきましょう。
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画像引用元:RESERVA公式ホームページ
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