近年、美容への意識が高まったことで、美容クリニックの利用が増えています。美容クリニックの経営は、施術内容の単価が高い代わりに、運営費や維持費、利用者満足度の向上、最新技術の導入など多くの要素をバランス良く管理することが必要です。
美容クリニックは、大手のクリニックに人気が集中しがちで、開業してすぐ倒産というケースも少なくありません。しかし適切な戦略と経営計画があれば、安定した経営の実現に一歩近づけます。経営の過程では、問題解決の手段を常に探し、改善や成功への道を目指す必要があります。このような努力を経営改善と言います。経営改善は、他施設との競争力強化、生産性の向上、利益の拡大、クリニックの価値上昇など、さまざまな面で重要なポイントとなってきます。
本記事では美容クリニックの経営を成功させるためのポイントや、経営改善のフローについて解説していきます。
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美容クリニック業界の現状
厚生労働省の「令和2(2020)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況」によると、2022年度の美容外科医は942人で、全医師32万3700人に対して0.3%ほどでした。一方、同じく厚生労働省の「令和2(2020)年医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況」によると、全国の美容外科の診療所は1,404施設あることがわかりました。上記の結果から、美容外科医の総数より美容クリニックの数が多くなっていることから、美容外科医だけでなく、外科医や皮膚科医などが美容クリニックを開業していることが明らかです。美容クリニックの数は、他の診療所や市場に比べて少ないですが、大手クリニックの人気が高く、新規開業のハードルは比較的高いです。
しかし、株式会社矢野経済研究所が2022年に発表した「美容医療市場に関する調査」によると、2019年に4,070億円まで上がり続けていた美容医療市場は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で3,920億円となり落ち着くものの、2021年には3,990億円と上昇傾向にあり、今後も市場規模は拡大していくと予測されています。
このように、美容医療業界の市場規模は拡大していくことから、大手クリニックなどの競合医院との差別化を明確にできれば、安定した経営が実現できます。
美容クリニック経営が失敗する原因
美容クリニック経営において失敗する原因を認知しておくことで、失敗や損害を回避できます。特に重要な5つの要因について解説していきます。
資金不足
美容クリニック経営には、初期費用が非常に大きな負担となる場合が多く、およそ5,000万円から1億円ほどかかります。資金が不足すると、当然ながら経営が立ちいかなくなります。
資金不足が起きると、医療設備や機器の修理や必要な用品の追加ができなくなり、施術の品質や効率にも影響が出ます。美容クリニックにおける失敗は、他業種より損害が大きく、賠償金も高額です。給与や福利厚生へ資金が回せないと、優秀な人材採用や長期雇用が難しくなるため、利用者だけでなくスタッフにも影響が及びます。また、マーケティング活動や広告予算も削減する必要性がでてくるため、利用者の獲得や維持が困難になり、競争力の低下や利用者が離れるといった恐れがあります。
なにより、資金調達が困難になり借金が増加すると、経営の安定性や将来の成長に大きな影響を与えます。
不適切な診療単価
診療単価が低すぎる場合、利用者数に比べて収益が確保できず、利益率が低下します。これにより、経営資金を確保できず、事業拡大も困難になります。設備や機器の修理、スタッフへの給与など、多くの観点で制約が生じます。これら多くの問題が重なることで、施術の品質や競争力の低下につながってしまいます。
逆に診療単価が高すぎる場合には、新規利用者の獲得やリピーターの維持が難儀です。診療単価は施術の価格と関連しますが、高額な料金設定は患者に受け入れられず、需要が減少します。したがって、集患力や収益性が低下で競争力を失い、適切な診療単価のクリニックに患者を取られてしまいます。
経営知識・マネジメントスキル不足
美容クリニック経営者の知識不足が事業失敗の原因になることもあります。
経営知識の不足は、財務管理、人材管理、予算立案、マーケティング戦略などを非効率的で難儀なものにします。これに伴って、経営は安定せず、収益も低下するため、クリニック経営の成長が阻害される可能性があります。
マネジメントスキルの不足は、看護師やスタッフの指導、モチベーション管理、チームビルディング、業務プロセスの確立といった課題を解決できず、スタッフの離職、クオリティの低下につながります。
医師の施術スキルの高さと経営に関する知識は別物です。独立してクリニックを開業して、経営者となる場合、経営知識やマネジメントスキルを向上させるために、継続的に学習や経験を積み重る必要があります。
集患力不足
美容クリニックにおいて、適切なマーケティングや宣伝が行われないと、美容クリニックの魅力が伝わらず、新規利用者の獲得が難しくなります。集患や宣伝に力を入れなければ存在を認知されず、競合クリニックが積極的に宣伝を行っている場合、さらに埋もれてしまうかもしれません。反対に過度な集患・宣伝は、イメージを悪くしかねない上に、盛った内容で実際の施術内容と齟齬がある場合、批判されることもあります。
結果として、適切な集患や宣伝をしなければ、集患数の減少や収益の低下、利用者離れが進む可能性があります。
人手不足
美容クリニックでスタッフが定着しない場合、給与や福利厚生の不十分さ、労働環境の悪さ、キャリアの成長機会の欠如、コミュニケーション不足などの理由が挙げられます。
医師や看護師の定着率の悪さは、単純な人手不足だけでなく、施術品質の低下、利用者が持つ信頼の減退をもたらします。またスタッフの頻繁な入れ替わりは、クリニック内の連携やコミュニケーションに不具合が生じ、クリニックの雰囲気や安定性に悪影響を与えます。
経営改善をするフロー
経営改善が必要になった場合、以下のようなフローで経営を考え直しましょう。
1.事業環境の分析:現在の内部状態の把握と、経営上の課題の明示
美容クリニック事業を進める上で、クリニック内の現状を把握し、そこから課題を明確化していくステップが必要です。これは自己分析と外部環境分析の2つで構成されます。自己分析は、クリニックの強み、弱み、機会、脅威を見つけ出すことが目的です。外部環境分析は、医療業界・美容業界の動き、競合、利用者の要望、法規定などを理解することが求められます。
2.目指すべき方向性:解決すべき課題への具体的な目標の設定
収入の増加、コストの削減、美容医療業界での市場占有率の拡大、利用者満足度の向上など、具体的かつ実現可能性の高い目標を立てることで、より改善へと近づきます。
3.改善の戦略:目標達成に向けた改善計画の構築
新しいニーズに向けた施術内容の考案、マーケティング戦略の再検討、施術以外の業務の効率化など、多くの手段から戦略を練っていきます。そして、その戦略を実行するための詳細なプランを作り、各任務の責任者、期限、必要な物品などを明記します。
4.実行と観察:改善計画の実施と進行管理
策定した行動計画に基づき戦略を実行し、その進行状況を定期的に観察します。計画を遵守するだけではなく、状況に応じた行動計画の微調整や、複数回の検証も重要なアクションです。
5.実績の評価:実施した改善計画が目標達成に寄与しているかの評価
目標達成のための行動が完了した後、その結果を評価します。成功した部分、さらに改善が必要な部分を特定し、次回の経営改善の参考にします。
この過程を繰り返し、継続的に新たな計画を立ててサイクルすることで、経営方針がより明確になり、経営の安定や業績の改善につながります。注意点として、実現可能性が低いと思われる改善策は、導入しても経営改善ができず、むしろ悪化する場合が多いです。具体的で実現可能な目標は、従業員のやる気を引き出し、結果的に早く達成できます。そのためにも実現性の高い改善策を立案し、経営改善を順序立てて進めていくことが必要です。
美容クリニックの経営を成功させるポイント
実際に美容クリニックの経営を考えるうえで、何をどのように実行、改善するかについて悩む経営者は非常に多いでしょう。本項では、美容クリニックの経営を成功させるポイントを具体的に紹介します。
リピート率を高める
利用者の満足度が高く、リピーターが多いクリニックは、一般的に売上が増加する傾向にあります。1人の利用者がクリニックに対して好感を持つと、その人が再度来院するだけでなく、SNSなどを通じて他の人々にもおすすめする可能性が高まり、それを多くの人の目に触れることで、利用者数が増加します。また、新規利用者を獲得するよりリピート率を高めた方が集患コストを抑えることができます。
美容クリニックは、リピートして利用する施術が多いため、初回の印象や施術スキルは特に重要視されます。これには技術が優れた優秀な医師を雇うだけでなく、利用者の不安や心配をやわらげる人柄も必要です。採用や技術以外に経営側ができることとして、クリニックの雰囲気や施術内容の充実や、適切な集患などがあります。
また、初めて来院する利用者へのクーポンは一般的ですが、2回目以降の利用者に対しても定期的にキャンペーンを実施・提供し、通うたびに利用者に得が生まれるような、リピーター患者を生み出しやすい制度を導入することが効果的です。
ターゲットの再選定
経営戦略の中心となるターゲットは、変更が必要であると感じた場合には再設定するべきです。美容クリニックにおいてターゲットの再選定を行う際、特に年齢層や性別、分野の特化などを意識することが望ましいです。
年齢層の意識は、美容クリニックに限らずターゲットの選定において重要です。一言で美容クリニックといっても、若い世代向け、働く社会人向け、中高年向けなど、施術内容やクリニックの雰囲気が異なります。若い世代であれば脱毛やプチ整形、中高年であればシミ・しわの改善など、分野を特化させることで興味を持つ利用者もいます。また、女性のイメージが強い美容クリニックですが、男性も同じ悩みを持っていることが多く、施術内容が同じでも男性にターゲット絞ることで男性利用者が訪れやすくなります。
ターゲットの選定により、医師や看護師の選定も異なってきます。ターゲットの年齢層への施術が得意だったり、同じ年代の方がコミュニケーションを取りやすい、などの場合があるためです。
自身のクリニックがある地域の年齢層、訪れる客層の分析をした上で、ターゲットを選定することが求められます。
価格の見直し
価格は低すぎても高すぎても利益が出ません。コスト、施術品質、利用者のニーズを考慮した適切な診療単価を設定することが重要です。
価格の見直し前に、全体的なコストの把握が必要です。初期投資とランニングコストはいくらで、売上はどの程度見込めるかなど、収益と費用の詳細な分析を行います。そして「損益分岐点」、つまり利益が出始めるポイントを明確にします。
料金設定を再検討する際には、競合クリニックの調査、選んだターゲットとコンセプトに合致した施術ができるかを検討します。美容クリニックは比較的高価格帯であるため、ターゲットが通い続けられないほど施術価格が高いのか、もしくはキャンペーンなどで利益を見込めないほど低くなってしまわないか、などの分析を行うことが望まれます。平日早朝の予約は割引適用など、曜日や時間帯によって料金が変わるような価格設定を採用することも効果的です。また、価格を高めに設定する代わりに、高品質な施術をするというのも戦略の1つです。
診療単価の増加
美容クリニックの収益を増加させるにあたって、診療単価を増加させることも大切です。コスト、施術の品質、利用者のニーズを考慮した適切な診療単価を設定する必要があります。そのためには施術内容の充実を優先的に行うことが大切です。美容クリニックで行う施術以外のサービスにも手を抜かず、付加価値を与えることも検討に値します。しかし、付加価値を与えることに気を取られ、本来の施術に支障が出る可能性があるため注意が必要です。美容クリニックに来る利用者は美容意識が高いと考えられるため、美容関連の別サービスは特に興味を持たれやすいです。
働きやすい環境
スタッフの定着を促すためには、適正な報酬体系や福利厚生の整備、働きやすい環境の提供に加え、キャリアパスの構築、定期的なフィードバックやコミュニケーションの改善が必要です。定着したスタッフは技術や知識の向上に貢献し、利用者の信頼を築き、クリニックの継続的な成長に寄与します。
一般病院と比べて夜勤が少ないものの、予約が詰まっている場合、忙しくなると休憩すら取れないこともあるため、時間管理を丁寧にするだけでも職場環境が非常に改善します。仕方のない部分もあり改善が難儀であることも多いですが、例えばシフト制を導入し休日の日数を充実させるといった工夫をすると効果的です。
システムの活用
新たなテクノロジーやシステムの利用は、業務の適正化、品質の向上、そして新しいものへの関心を抱く人の取り込みなど、経営全体の最適化に寄与します。例えば施術機材を最新にするだけでなく、患者がクリニックをよりかんたんに利用できるシステムの導入など、利用者満足度と運営者やスタッフの業務負荷軽減の双方が求められます。
たとえば、オンライン予約システムや自動決済システムの採用は、クリニック運営の効率化だけでなく、面倒な予約手続きに伴う利用者の損失を防ぐための手段です。管理業務に追われることなく、スタッフは施術やケアに専念することが可能となり、スタッフの手間が削減され、利用者のロイヤリティ向上が期待できます。
マーケティングの強化
クリニックの発展には、マーケティングへの取り組みが欠かせません。成功したマーケティング戦略は、クリニックの認知度を上げ、新たな利用者に興味を抱かせて、利用状況や収益に対して直接的に貢献します。さらに、マーケティングの適切な運用により、利用者の趣味や行動をより深く把握し、対象とする利用者に対して最適な施術を提供することが可能となります。
集患や宣伝に力を入れるためには、適切なマーケティング戦略の立案やSNSやウェブサイトを活用した情報発信、イベントやキャンペーンの実施などが重要です。利用者のニーズを把握し、魅力的な施術内容や特典を提供することで、集患力を向上させられます。
具体的な例として、YouTubeやInstagramなどは幅広い年齢層に閲覧されており、最近ではクリニックが独自のアカウントを持つことも増えてきています。施術内容の紹介やキャンペーンの告知などに力を入れることができれば、新規利用者の獲得が可能になります。
マーケティングを強化し、市場の変動や競合環境の変化に対応することで、安定した美容クリニック運営が実現します。
まとめ
今回は美容クリニック経営のポイントについて詳しく説明しました。
実際に美容クリニックを運営する中で、期待より客足や売上が伸びず、さまざまな理由で運営に頭を悩ませる場合があります。こういった状況になったときこそ適切な経営のポイントを理解し、具体的な改善策を段階的に実施していくことで解決の糸口が見えてきます。
現実的に難しい改善案ではなく、競合相手にないコンセプトから考え得る施策の実施、利用者満足度を向上させる方法の導入などを計画的に進行することが重要です。
画期的な戦略や効果的な施策を実施することで、患者、医師、スタッフ全員にとって快適な美容クリニックの経営が実現します。
>>美容クリニック成功のカギ。今から開業したい人が知っておくべきポイント【前編】
>>美容クリニック成功のカギ。今から開業したい人が知っておくべきポイント【後編】
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